ハコブロ

箱には無秩序に日常が投げ込まれているよブログ

時刊 わたしのサンタさん最終号

finale

 不意に目が覚めた。
 俺はどうやらコタツに突っ伏して眠っていたらしい。腕が凄くだるくなっていた。痺れて当分動かせそうに無い。
 ぐるりと部屋の中を見回す。テレビ、冷蔵庫、パソコン、テレビガイド、ティッシュ、財布、携帯、PS2。そんなものばかり。俺の部屋っぽいけど、なんだか違和感を感じる。ここは本当に俺の部屋か? なんか、こう、ちょっと違うんじゃないだろうか。どこがどう違うかと言えないのが非常に心苦しいのだが、なにか、こう、違うのだ。
 もしかして違う人の部屋だろうか。そうだ、さっき上げたものくらい、誰もが持っているはずだ。俺の部屋に限ったことじゃない。そうだ、ここは俺の部屋じゃないんだ。まずい、早く出なくちゃ。
 コタツから立ち上がる。そこで、今までコタツの死角に隠れていて見えなかった場所に、人形が落ちていることに気がついた。
 拾い上げてみる。それは、随分とくたびれた、トナカイの人形だった。
「あれ……これって」
 トナカイの首輪の部分を目の前に持ってくる。そこには汚い字で『メリー はざまたまき』と書かれていた。
 やっぱりそうだ。これは確か、小さい頃になくした人形だ。今までどこかに行ってしまっていたのに、なんでこんなところにあるんだ? こんな人形、持ってこなかったはずなんだけど……。
「ん、あれ、なんだ?」
 気がつくと、俺の目から涙がこぼれていた。ぽろぽろと、後から後からとめどなく、際限なく流れてくる。
「え、なに、どうなってんのこれ」
 俺の心と裏腹に、涙は一向に止まる気配を見せなかった。ただ、トナカイの人形を見ていると、悲しい気持ちになって、ひたすらに涙が流れてきた。
 どうすればいいだろう。どうしたら、この涙は止まるだろう。そう悩んでいた俺に、
「どうしたの、環くん?」
 そう、優しい声がかけられた。
 振り返る。鮮やかな金髪に、俺のお古のシャツを着た少女がそこに立っていた。
「ああ、メリー」
 俺は安心したように呟いた。だけど、何に安心したのかは分からなかった。
「いや、なんか、これ見てると泣けてきちゃって」
「ふうん……変な環くん」
「変なとか言うな、まったく」
 いやまあ、確かに変か。しかしなんだか悔しいから言い返しておこう。
 携帯を拾って時間を確かめた。しかし、携帯は真っ暗なまま何も映さなかった。
「げ、電源切れてる。充電忘れてた」
「今はね、26日の、午前4時だよ」
「うわ、そんな時間かよ。つか、そんな時間に、なんで起きてるんだ?」
「それは、ちょっと……」
 メリーは下を向いてもじもじとする。ああ、そうか。そりゃそうだ。こんな時間に起きてすることなんて、それくらいだ。いかんいかん。
「ま、いいや。ほら、さっさと寝ようぜ」
「……うん」
 コタツを消してからベッドに入り、横にもう一人分のスペースを開けた。その開けたスペースの中にメリーが入り込み、俺にしがみついてくる。そうしなければ寒くてやっていられない。
「それじゃお休みー」
「うん、お休み……。ねえ、環くん」
「ん?」
「明日、どこか行こうよ」
「明日?」
「だって私、クリスマスのプレゼント、なにももらってないもん」
 え、あれ、そうだっけ。
 思い出してみるが、確かに、何かプレゼントを渡した記憶が無い。俺は一瞬で青ざめた。
「うわ、ほんとだ、すまん。ごめん。うわー、なにしてんだ俺……」
「いいよ、気にしないで。……だからさ、明日、どっか行こう?」
「……分かった。いいぞ、どこでも。どこがいい?」
「どこでも良いよ。環くんと一緒なら」
「そっか……それじゃ、明日起きたら決めようか。二人で」
「うん、二人で」
 俺とメリーは、布団の中で小さく指切りをした。
「それじゃ、今度こそ」
「うん、今度こそ」
 
「おやすみなさい」
 
 
<おわり>